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放送部の取り留めのない話38

大丈夫です。生きてます。杏雷です。放送部の取り留めのない話38です。

1年生メイン回です。
CPは憂×かずみのような感じが。します。

勢い余って砂のお城に顔から突っ込むような話です。だいぶ比喩が飛躍しています。

追記からどうぞー。
 

 
タイトル『A castle of sugar』

これ好きに食っていいよ、と机に放られた袋には、示し合わせたように4種類の飴が入っていた。

「雨祢、それ気に入ってんの?」
黒子先輩がその袋に手を差し込む。それをきちんと見届けておいて、雨祢先輩は言う。
「なんだ、ろころこは気に入らんのか」
お前は食わなくていい、と、暗に言っているのだろうなぁと感じる。この2人はいつ見ても仲が悪い。
史音先輩が小さくため息をついて、雨祢先輩を睨む黒子先輩を手で遮る。
自分もその袋から包み紙を取り出し、胸ポケットにしまってから、私たちの方に向き直った。
「だからなんで2人ともそんなに喧嘩腰なの?
 あ、1年生、今からちょっと部室空けるから、自由に練習してて」
この人は、私たち1年生に対してはだいたい笑顔なのが少し怖かった。
笑顔自体は決して怖くないのだけれど、その、普段穏やかな人ほど怒ったら怖いと言うし。
分かりましたと素直に頷いて、部室を出て行く先輩方を見送った。

飴の袋に手を伸ばす。残っている数から推測するに、どうやら買ったばかりのもののようだ。
そうは言っても4種類全てを受け取るわけにもいかない。少し悩んで、あまり見慣れない名前の味を取った。
個包装の中身を口に放り込むと、少し酸っぱいベリー系の風味が広がった。なんだろう、これは、ラズベリーだろうか?
確かにこれはおいしい。今度自分でも買おうかな。
そんなことを考えながら、包み紙を捨てようと振り返ったとき、お腹の辺りに何かがぶつかってきた。テーブルに腰がぶつかって鈍く痛む。
何が起きた、と思って見れば随分と簡単なことで。かずみが私に抱きついてきたのだった。
確かに最近夕方は少し肌寒いけれど、この密着度はどういうものか。
「かずみ、暑くない?」
「憂ちゃんがあったかいのですよー」
会話が噛み合ってないけど、まあ、いいんだろう。

しかし、かずみが私に抱きつくなんて珍しい。
いつもは、秋穂に引っ付いて、スカートを引っ張ったり抱きしめられたりしているのに。
と、そこで、今日はまだ秋穂が部室に来ていないことに気づいた。どうやらそれで、代わりに、私の方に来たようだ。
果たしてこの子はくっつける相手がいれば誰でもいいのだろうか? まさかそんなことはないだろう、けど、この少し腑に落ちない感じはなんだろう。
特に意味はなく、くっついてきたその身体を抱きしめる。身長差は10cmなんてものじゃないから、私が覆いかぶさってるみたいになった。
それでも別に構わないようで、かずみはきゃーと楽しそうな悲鳴、のようなもの、を上げた。何が面白いのかよく分からない。
でも、あったかいと言うのは分かる気がした。

そのまましばらく抱き合っていたが、ふと、かずみが顔を上げた。
彼女らしい可愛らしい笑顔が、随分と近くに迫っていた。
「ねー憂ちゃん憂ちゃん、飴どれ食べるー?」
「飴? 私、もう食べたけど」
「なんと! それは抜け駆けというやつですよ憂さん!」
それで合ってるような合ってないような。言葉が合っててもリアクションは明らかに、明らかに行き過ぎだ。
「かずみ、どれか食べたかったの?」
「そうじゃない、けど、憂ちゃんはどれにした?」
「私は、えーと、……フランボワーズっていうの」
その単語に、かずみが首をかしげた。私も聞きなれない単語だったから試しに選んでみたところはあった。
実際のところは、普通のラズベリー味だった。
「それ、おいしかった?」
「おいしいけど、少し酸っぱいよ」
「む。それはー……試食とかは出来ないですかね」
飴の試食、ってなんだろう。
ふざけたような言葉でも、かずみの表情は真面目で、なんというか、それがどうにも愛らしかった。
ほっぺたを軽くつつく。ぷに。ぷにぷにぷに。
「やー、憂ちゃん、くすぐったいですよー」
少し困ったように笑いながら、かずみが身をよじる。その度に柔らかい頬がぐにぐにと形を変えた。

かわいい。素直にそう思った。
そして、部室には私とかずみしかいなかった。

10cmの差というものは、少しだけ、……ほんの少しだけかがんでしまえば、それは背伸びをするよりも、簡単に埋められるものだったから。

「っ、ゆ、憂ちゃん!?」
は、と口を押さえて、かずみは俯いてしまった。
髪の隙間から見えた赤い耳から、視線を逸らした。

「あ。え、えぇと、その。試食、って、いうことで」
いくら魔が差したとはいえ、苦しい言い訳だった。
かずみがゆっくりと顔を上げる。少し潤んだような目と目が合って、逃げたくなった。
「ししょく、……そっか、試食。し、試食なら仕方ないですねっ!」
信じられないが、どうやら納得がいったらしい。
それとも、そういうことを分かっていて、あえてその振りをしたのか。
いやでもかずみは真っ直ぐな子だからと少し間違えれば嘲りになりかねない認識を何度も呟いて、あくまで冷静に、言う。
「そう、試食だから。あ、でも、このことは、秋穂とリトには内緒、ね」
これは、ただの気の迷いだから。深く考えることでもない、その額面通りに受け取るべき事象だから。
かずみが素直に頷く。

そして、ちょうどそのとき。本当に見計らったかのようなタイミングに。
スタジオの外から、とたとた、軽やかな足音が聞こえてきたのだ。

お互いに腕を放す。一瞬で間に満ちた寒々しいものに気づく間さえなく、

「すみません遅くなりましたーっ!」
と、リトが飛び込んできたのだった。その少し後につけて、秋穂も部室に入ってくる。
広々とした部室を見回し、まずリトが首をかしげた。
「あれ、先輩方は?」
「ちょっと外に出てる。あ、これ、雨祢先輩からの差し入れ。好きに食べていいって」
跳ねる心臓を押さえながら、あくまで冷静に、飴の袋を差し出す。
受け取って、イラストをしげしげと眺め、リトが、今度は反対側に首を傾けた。
「ねえ、フランボワーズって何?」

一瞬部室の時が止まった。
でも。
私には後ろめたいことなんてない。普通に、それはラズベリーのことだと言えば、私が言えば、いいだけの話だったのだ。
そう気づいたときには、リトに耳打ちしていた。

私ではなく、かずみが。

かずみの話の内容は聞き取れない。まさか、一瞬で、約束を反故にするなんてことないだろうけど。
私が落ち着かない様子なのを、秋穂は目ざとく見抜いていたらしい。
私の制服を引いた秋穂の表情は、真剣だった。

「憂。かずみは、素直な子だからね?」

たぶん。たぶん、秋穂には、全部分かったんだろう。
私が何か言う前に、話を終えたらしいかずみがいつも通り秋穂に抱きついたので、彼女はその頭を撫でてあげていた。
リトは特にそれを気にすることもなく、袋から飴を取り出す。赤色は、フランボワーズの包装。
「リト。かずみから、何聞いたの?」
少し声を抑えて尋ねる。リトは、特に大したことじゃないけど、と前置きして、
「なんか、これ、凄い甘いんだって」
だから気になって。淡々と答えた。
しかし、こっちの気持ちは、そんなに淡々と行かなかった。

「ごめん、ちょっと外行ってくる」
「ん? いってらっしゃい」
そうやって私が火照る頭を冷やしに部室を出たとき、
「天然って罪だねえ」などと秋穂が呟いたことなど、私は知らない。


口の中に残る、わずかな欠片を噛み砕く。
一体、これの何が甘いと言うのだろう。

end


タイトルは『砂上の楼閣』ならぬ『砂糖の楼閣』というやつです。

作中で食べていた飴については、『スペシャリテ・フリュイ』でググるといいかもしれません。
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